無題

休職しました、主夫始めました、音楽聞いています

読書感想文 - 横浜駅SF

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脳に埋め込まれたSuikaで人間が管理されるエキナカ社会。その外側で暮

らす非Suika住民のヒロトは、駅への反逆で追放された男から『18きっぷ』と、ある使命を託された。

はたして、横浜駅には何があるのか。人類の未来を懸けた、横浜駅構内5日間400キロの旅がはじまる━━。

改築工事を繰り返す<横浜駅>が、ついに自己増殖を開始。それから数百年━━ JR北日本・JR福岡2社が独自技術で防衛線を続けるものの、日本は本州の99%が横浜駅化した。

 

裏表紙の広告文なんですが、読んで面白いと思った方、もしかしたら今が一番面白いところかもしれません。そんくらい面白い設定だと思います。だからと言って、小説が面白くないわけじゃない。わくわくしちゃった方は読むべきです。『横浜駅』ははったりの世界観ではなく、世界でした。

 

この物語の主人公は横浜駅なんだと思います。それくらい『人』の物語が淡泊です。主人公は自らを『旅行者』と称する流され型。この人は信念や葛藤、そして成長や変化のないまま、物語を進めていきます。

かといって、この人に魅力がないわけじゃないんですが。性格は主人公らしくバランス型、善人タイプなんですが、若干、自らの生死に無頓着です。まあ特に必要もなく大冒険しちゃうような人ですから。旅の動機は、ディストピアの末端で『生かされている現実』から、『生きている実感』を得るためだったのではないかと。文字にすると、ものすごく青臭いですが実際は、知ることにも、生きることにも、死ぬことにも、どうにも淡泊な塩人間です。でもそれなりに義理堅く、それなりに頑張り屋さんです。信念があるとすればこういうところ。善悪を超えた価値観、譲れない何かを自分の中に持っています。ただ、ふつうです。彼が何を失い、何を得るのか、その物語はものすごく淡泊ですけど、なかなかどうして、悪くない。それから、彼の物語はしっかり完結します。バトンはしっかり受け継がれたと。

 

その他の登場人物も、キャラは濃く、魅力的な方ばかりなんですが、いかんせん描写が薄い。『物語』に到達する以前に終わってしまいます。文字数にすれば、それなりの割合を与えられているはずなんですが。人間臭さが足りないのかな。

人間臭さがないという点について、物語の裏主人公『横浜駅』は格別です。性格描写やキャラ付はまったくなく、まさにインフラ然とした味もそっけもない人工物様なのですから。いや、味がないわけじゃない。人工物ならではの素っ頓狂さ、大局的なユーモアはこの小説で唯一成立している『笑い』ではないかと。その他の小ネタに関しては、私の中では終始ダダすべりでした。(あくまで個人的感想。申し訳ない)

終盤、物語のピントが、この奇怪なディストピアに合ってくるのは間違いありません。いったい『これ』がどのようにして生まれ、そしてどのようにして…。エピローグでの幕の閉じ方も含め、とても愛されています。

 

なんだろう…

確かに物足りない。

それは続編ありきなのだからかもしれませんが。

しかし、物語はしっかり完結しているように思える。

すくなくとも『横浜駅』について、語られるべき物事は語られたと。

でも物足りない。

この物足りなさは、後味の悪さではない。

まだ読みたい。

また読みたい。

決して終始ワクワクが止まらないような世界ではない。

人間より人間らしくなった人工知能の善意から生み落とされたディストピア

なかなか狂おしい世界じゃないか。

まだまだ読み足りないよ、この世界!

面白いよ、この本!